top of page
FUKUOKA BEAT REVOLUTION

福岡の生きる伝説、山部善次郎率いる最高のロックンロールワゴンYAMAZEN&The 幌馬車、翔ける!――“69 Love YAMAZEN Tour2024”完全密着!!

更新日:7月30日

DAY1 YAMAZEN&The 幌馬車“69 Love YAMAZEN Tour2024”、東京・高円寺「HIGH」から 始まる! 

KOENJI HIGH Live Photo:YOSHIMASA YAMANAKA


山部YAMAZEN善次郎と穴井仁吉は約束を守る男である。昨2023年に続き、本2024年も東京へやってきた。山部の69歳を記念するYAMAZEN&The 幌馬車のツアー“69 Love YAMAZEN Tour2024”が6月21日(金)、東京・高円寺「HIGH」で始まった。今年は東京、神奈川・横浜「STOVES」、福島「AREA559」と回る拡大版。昨2023年、4月23日(日)に埼玉・所沢「MOJO」、4月24日(月)に東京・下北沢「440」を巡るツアー直後、彼らは私達に来年は東京、神奈川を回ると約束している。



今回、山部善次郎(Vo、G)を支えるのは、彼を慕うThe幌馬車の乗り組み員。昨年同様、穴井仁吉(B)、延原達治(Vo、G)、茜(Dr、Vo)、澄田健(G、Vo)、石井啓介(Kb)になる。前回、参加の下山淳は今回、不参加だが、その分、澄田がフルタイムで参加する。いまの山部の魅力を引き出す最強のメンバーといっていいだろう。


彼らは、6月21日(金)の東京・高円寺「HIGH」公演の前日、20日(木)に福岡から梅雨入りとともに東京入りした山部善次郎と6時間を超すリハーサルを都内某所で繰り広げたという。空港から、そのまま直行して長時間のリハーサル。ハードな一日であるが、それは彼らの意気込みが伝わるというもの。そんなリハーサルの成果が表れるのは翌日のこと。



会場の高円寺「HIGH」はいつものオールスタンディングではなく、高齢者の身体にも優しい、席ありにセッティングされていた。席は埋まり、立ち見も出ている。彼の再来をいかに皆が待ち望んでいたかがわかるだろう。また、開演前からTシャツやバッジなど、今回のツアーグッズを買い求めるものも多い。まるで観光地のお土産状態である。彼のCDだけでなく、イラストレーター、画家としても活躍する彼が絵をかまぼこ板状(!?)のものに描いた作品(アートウッド)も評判がいいみたいだ。


セットリストなどの詳述は控えるが、「6600ボルト」(山部のドキュメンタリー映画『6600ボルト』のタイトルトラック。今回、同映画を撮った下本地崇監督が同行。フィルムを回している)、「ランナー」、「HOT SUMMER STORY」、「クレイジータウン」など、山部善次郎のお馴染みの曲のオンパレード。The 幌馬車の熟練しつつも勢いと華のある演奏がその魅力を倍増させる。6時間のリハーサル以前に昨年、ツアーを共にしたという経験が彼らの身体に沁み込み、どうすれば山部が引き立つかを熟知しているかのようだ。いま、The 幌馬車の乗組員は彼らしか、考えられない。


そして、福岡の後輩、勝手にしやがれの武藤昭平がゲストとして出演.「アシスタント」や「GOOD BYE MAMA」などを披露する。山部と武藤の“だみ声歌合戦”、武藤が茜の代わりにドラムスを叩き、茜が前に出て、山部とのヴォーカルの掛け合いをするなど、それはまるでソウルショー。聞きもの、見ものである。山部は武藤を“いつの間にか、人気者になっている”といじるが、いい意味で武藤の後輩然とした佇まいが、微笑ましい。当代随一の人気者でストリートのカリスマも山部の前では後輩仕草になる。歴史と伝統と実績……流石、福岡の山部といっていいだろう。



曲がいい、歌がうまいは当然として、やはり、心を惹きつけるのはウィットやユーモアを含む、彼のカリスマ性だろう。彼がいるだけで会場は“YAMAZEN劇場”になる。この伝統は“穴井劇場”にも引き継がれる。



お馴染み「キャデラック」を歌い終えると、楽屋に戻ることなく、そのままアンコールになる。山部は会場に来ている仲間達の名前を叫ぶ。多くのミュージシャンに慕われ、愛されている山部だけある。錚々たる顔ぶれの名前が並ぶ。



その中からMO'SOME TONEBENDERの百々和宏が呼び込まれ、ステージに上がる。彼は昨年も下北沢「440」のライブにツアーを終え、そのまま会場に駆けつけている。今回も飛び入りゲスト。彼が参加して演奏されたのは説明不用、「可愛いアノ娘」である。彼はギターの代わりにビールを抱え、山部とともに同曲を歌う。昨年もそうだったが、山部の傍らに穴井仁吉、百々和宏、澄田健というTH eROCKERSのメンバーの3ショットに会場は歓喜の声を上げる。そんな粋な演出もYAMAZEN劇場ならではだろう。

Photo:FUKUOKA BEAT REVOLUTION


さらに百々をリードヴォーカルに「ルート66」が披露される。同曲は当初のセットリストにはなかった曲である。そんな急な変更、無茶ぶりに対抗できるのがめんたいロッカーの基礎教養、音楽的体幹ではないだろうか。さらに同じく予定になかった「ホンキートンクウィメン」が披露される。同曲は山部の指名で、延原がフィーチャーされた。当然の如く、彼らはこともなく対応する。鮎川誠や柴山“菊”俊之、松本康などの先輩から連綿と受け継いだものが今日の血や骨になる。そして、高円寺が福岡・天神の親不孝通りになるのだ。まさに福岡名物、“めんたいロック”の聖地になる。山部は単なるロックやソウルのスピリットを継承するだけでなく、福岡のスピリットを伝えるため、東京へやってきたと言っていいだろう。山部が辛しめんたいこや山笠、ソフトバンクホークスととも“福岡名物”と言われる由縁でもある。



Photo:FUKUOKA BEAT REVOLUTION



約2時間のYAMAZEN劇場、観客を巻き込み、この日も盛況だった。めんたいロックが好きと言う方は生YAMAZENを体験すべきだろう。一人でも多くの方に体験してもらいたい。ライブ後、山部は地下1階の楽屋から地下2階の会場に降りてきて、物販会場で気軽にサインや記念撮影に応じている。強面だが、その実、心は温かい。決して怒鳴ったり、殴ったりしないので(笑)、安心して彼と交流して欲しい。彼の素晴らしさをもっと多くの方に知らしめるため、努力すべきと、この日のライブを見て、改めて感じた方も多かったのではないだろうか。


そして翌日、6月22日(土)のステージは横浜のグリル&バー「STOVES」。さらに翌々日、6月23日(日)には福島「AREA559」に山部YAMAZEN善次郎&The幌馬車は出演することになっている。


明日への英気を養うため、高円寺「HIGH」の公演後には高円寺の中華料理店で打ち上げが行われた。何故か、山部も穴井もともに冷麺とノンアルコールビールを注文している。昨2023年、海ほたるで仲良く、揃って、ちゃんぽんを食べていた。まるで兄弟のようである。打ち上げにはその日に偶然、荻窪「ルースター」でライブがあり、たまたま、山部と宿泊先のホテルが一緒だった、THE ONENIGHTSなどの活動でお馴染み、福岡のブルース界を代表するギタリスト&ヴォーカリスト、ハリケーン湯川も顔を出している。福岡度が一段と高くなる。まるで高円寺が天神の親不孝通りになる――そんな夜だった。



Photo:KYOKO ONO



DAY 2 YAMAZEN&The 幌馬車、神奈川・横浜に上陸! “あぶないBJブルース”を奏でる!

YOKOHAMA STOVES Live Photo:SHIGEO KIKUCHI 


東京・高円寺から神奈川・横浜へ。山部善次郎率いるYAMAZEN&The 幌馬車“69 Love YAMAZEN Tour2024”の2日目、6月22日(土)のステージは横浜のグリル&バー「STOVES」である。勿論、同所での山部YAMAZEN善次郎&The 幌馬車のライブは初になる。


「STOVES」はお馴染み、横浜のライブ&バー・レストラン「THUMBS UP」の系列店だ。場所はJR・京急・東急・相鉄・市営地下鉄線の横浜駅から徒歩5分ほど。横浜というと、みなとみらい、中華街など、近未来的なイメージが強いが、同店があるエリアは駅近くながら猥雑な繁華街の雰囲気を残す。川に面した同店周辺からは“あぶ刑事”や“ヨコハマBJブルース”の雰囲気も漂う。山部YAMAZEN善次郎&The 幌馬車にはぴったりの場所である。


また、通常はグリル&バーとしての営業がメインで、ライブのためにスペースを設える。おまけに同店自慢のハンバーガーはバンズ、パテ、ピクルスまで全てホームメイドで絶品という。ライブ前後のランチタイムやバータイムには客がひきもきらない繁盛店である。店員の方たちもアメリカのダイナーにいそうな雰囲気のある方ばかり。山部も会場に入るなり、その雰囲気が気に入ったようだ。



そして、同所を仕切るのは「THUMBS UP」で「のりフェス」を開催してきた方である。リクオや花田裕之、藤沼伸一、THE PRIVATES、WILD CHILLUN……などを自ら招聘し、主催している。いわゆるプロフェッショナルではなく、インディペンデントな活動ではあるが、全国のライブハウスロッカーを繋ぐ作業をしている。基本的に自分の見たいもの、また、自分がみんなに見てもらいたいものをバックアップしている。こういう人達の活動がライブハウスシーンを活性化させる。また、コロナ禍の中、「のりフェス」では声が出せない代わりにおもちゃのタンバリンやカスタネットなど、鳴り物を用意したり、観客のアイデアで横断幕に“シャララ~”など、コーラスの歌詞を書いて、そのコーラスの箇所になると、それをミュージシャンに見せ、観客は皆で横断幕を揺らす。それは会場に一体感を生んでいた。そのフェスは温もりがあり、心が和む。入場者には“あめちゃん”なども配っている。フェスとは大手イベンターやテレビ局、広告代理店だけが作るものではない。そんなことを改めて感じさせる。


Photo:FUKUOKA BEAT REVOLUTION


会場でこの日のセットリスト(勿論、リストがあってもほとんど、曲順通りにはいかず、変更が相次ぐ!)を見て、第1部と第2部の間にトークタイムがあることを知る。いきなりトークタイムが設定されていることに驚かされたが、山部のおしゃべりも彼の芸のうち、どんな話が聞けるか、わくわくもするところ。



開場時間の午後5時を過ぎると、会場に入場者が続々と詰め掛けてくる。やはり、高円寺には高円寺、横浜には横浜の色がある。漠とした表現になるが、スタイリッシュでクール。どこか横浜らしい洗練された雰囲気を纏う。やはり、横浜は違うのだ。


会場は人でいっぱいになる。テーブルにはライブの前の腹拵え、ハンバーガーやピザなどが並ぶ。観客もどんな店かを把握しているようだ。確かには同店の系列店「THUMBS UP」は食事を楽しみに来ている人も多いと、聞いたことがあった。



開演時間の午後5時を5分ほど過ぎ、The 幌馬車がステージに登場する。山部は、まだ、ステージには上がらない。まずはバンドの演奏で観客を盛り上げる。ソウルフルでファンキーなサウンドが会場を揺らす。


会場が温まったところで、山部がステージに上がる。昨日もそうだったが、足の調子よくないらしく、スタッフが彼の入場をサポートしている。もっぱら歌唱は着席してのものになる。勿論、要所要所では自ら立って歌う。安心してもらいたい。


お馴染み「6600ボルト」をパワフルに歌う。いつもの山善である。彼は“横浜は久しぶりだぜ”と観客に向かい、嬉しそうに叫ぶ。さらに「誰かが邪魔している」を畳みかける。


次の曲の直前、曲目が変更される。第2部で演奏予定だった「Modern Boy」が第1部に急遽、繰り上がる。延原が“ここで1回目の変更がありました”と、嬉しそうに説明する。当然、曲目や曲順の変更は慣れっこ。その日の終演後、延原に“変更ばかりで大変ですね”と聞くと、彼は“全然。平気です。もっと、わがままな人がいるから”と、こともなげに語る。それが山部をサポートするということなのだろう。急な変更などにも焦ることもなく、平然と同曲を演奏し、歌唱する。その音楽的な反射神経は驚愕に値する。



本来は第1部の締めの予定だった「HOT SUMMER STORY」が早出しさせる。レゲエリズムのナンバーで、ソロを回したりしながらもいきなりダメ出しややり直しが入る。店のスタッフに“石井が本調子じゃないから酎ハイ3杯持ってきて”と注文を出す。山部なりの愛情の裏返し的な表現のいじりだが、これだけのメンバーにそれが出来るのが山部の凄さだろう。どこか、緊張感をお互いに持ち続けたいというのもあるはず。勿論、メンバーもそんなやり取りを楽しんでもいる。オリジナルの倍以上の尺になっているが、そんなところも含め、その乗りに観客も呑み込まれていく。


その後も曲目や曲順の入れ替えなどもあるが、メンバーはびくともしない。単純にいい曲といい詞があり、いい演奏といい歌があるという事実に変わりはない。「ランナー」などはフォーク的な風合いを持つが、涙を拭いて、胸を張って、走り出すんだ……というフレーズが心に突き刺さり、私達を鼓舞する。同曲は2013年にリリースされたアルバム『少しだけ優しく』に収録され、PVは下本地崇監督が手掛けている。ちなみにこの日も監督は会場に来ていて、カメラを回していた。後日、下本地監督に確認したところ、“『6600ボルト』の次回作が静かにクランクイン。完成は2年後”と答えてくれた。



午後6時20分を過ぎ、約50分で第一部は終了する。その後、短い休憩があって、穴井、石井、山部が登場してトークコーナーになる。YAMAZEN & DYNAMITEのアルバム『DANGER』(1986年)のレコーディング中の話など、楽しい話だが、危険過ぎてオフレコにさせてもらう(苦笑)。これは生で聞いてもらうしかない。穴井が“山部さんがギャインとなっていた”と、表現していて、九州のものならわかると言っていたが、九州のカメラマンの方に聞いたら“ギャイン”なんて言葉はないと言っていた。文脈から判断すると、“精神の飛躍的拡大”ということだろうか。


また、以前、山部が福岡のイベントで一緒になったミュージシャンのことを穴井にぼろくそに言って、その楽屋に殴り込みをかける勢いで消えてしまったという。穴井は焦って、そのミュージシャンの楽屋へ止めに行ったところ、暴力事件どころか、山部がそのミュージシャンに正座して、“うちの穴井をよろしくお願いします”と、頭を下げていたという。そんな、ちょっといい話もあった。


トークの後、3人での演奏が始まり、同会場を仕切っている方が加わり、山部は名曲「オルゴール」を歌い出す。彼女はデュエットするのではなく、傍らにいるだけだが、深い思いを歌詞にしたためたバラードに心と身体を震わす。何か、蕩けるような表情をしている。山部の歌力を目の当たりにする。ちょっといいシーンである。



穴井、石井、山部に延原、茜、澄田が合流する。「BOOGIE BABY」、「Goo Goo Goo」と、演奏していく。ここも入れ替えがあったが、それはお約束事としよう。「Goo Goo Goo」で山部が観客に手拍子をお願いする。観客もそれにしっかり応える。興奮と熱狂のボルテージが一気に上がる。そんなところを見計らって、澄田に“途中から「テキーラ」を入れ込む”という無茶ぶりする(!?)。ご存知、ルースターズもカバーしたチャンプスのあのナンバーである。さらにサンタナの“「ブラック・マジック・ウーマン」(ピーター・グリーンのブルース風味より、サンタナのラテンな味付けを希望している)を”と、無茶ぶりをする。それに澄田もしっかり対応する。音楽的な引き出しが多くないと、すぐには山部の注文に応えられない。曲自体がカオスな状況になりつつも山部は店のスタッフへテキーラやズブロッカを澄田や石井のために注文している。勿論、彼らはしっかり飲み干している。終演後、澄田に確認したところ、出されたテキーラはすべて呑んだそうだ。かなり足腰に来たという(笑)。



そんな混乱状態を収めるべく、山部は「可愛いアノ娘」と「キャデラック」を会場に投下する。お馴染みの曲に観客は狂喜乱舞する。流石、この2曲には誰も抗えない。山部は同曲を歌い終えると、ステージを去っていく。メンバーもステージを後にする。本来であれば、ステージに戻ってアンコールとなるが、セットリストには本編最後とアンコールにこの2曲の曲名が記載されていた。山部の中ではやりきったのではないだろうか。観客のアンコールを求める拍手と歓声は止まないが、暫くすると、山部の思いを理解したのか、拍手をやめ、帰路につく準備する。いい意味であっさりしているところが、洗練されている横浜らしいところだろう。時間そのものも店のディナータイムになろうとしていた。その余韻を楽しむためか、帰らず、そのままディナータイムを堪能するという観客もいた。また、今回のツアーTシャツや山部がイラストを描いたかアートウッドを買い求め、山部に買ったTシャツにサインを貰ったり、記念写真を撮ってもらったりしていた。何か、とても和やかな時間が流れている。そのまま同所で打ち上げになり、メンバーも美味しそうにアルコールを口にする。



いい意味で1日目と2日目では、まったく、違う。まさにライブは生き物。山部がルーティーンを嫌い、同じことの再生産はしないという矜持かもしれない。1日目も2日目も見たからには3日目も見たくなるもの。また、山部善次郎&The 幌馬車が福島の地で、どんな化学反応を起こすか、楽しみでもある。






DAY 3 福岡の生きる伝説、山部YAMAZEN善次郎、福島で新しい伝説が生まれる!

FUKUSHIMA Live Photo:FUKUOKA BEAT REVOLUTION 


Photo:KYOKO ONO


福島へは昨2023年9月23日(土)、24日(日)に山部、穴井、石井の3人で同所に行っている。「69山善祭り in 福島」として1日目はトークショー、2日目はライブショーという変則的なものだった。The 幌馬車を率いての“来福”は当然、初になる。昨年、今年と、今回の福島へのツアーをコーディネイトしたのは福島在住の方で、自ら山善を観たいというのもあるが、山善を福島の人にも観て欲しくて、 多分、10年くらい口説いたという。 山善の魅力を沢山の方に伝えたい気持ちで、自らがイベンターとなって福島へ招聘している。The幌馬車とのツアーの最終日が東京、神奈川を経て、少し足を延ばして福島になったのは、その方の気持ちに報いるためでもある。山部は実に義理堅い。粗野に見えて義理と人情の人である。そんな街での山部YAMAZEN善次郎&The 幌馬車の初のライブ。そこでどんなドラマが生まれるか、楽しみである。



生きる伝説に新しい伝説が生まれる――まるで言葉遊びみたいだが、この日、6月23日(日)、福島「AREA559」でYAMAZEN&The 幌馬車のライブを体験したものは誰もがそう思っただろう。6月21日(金)の東京・高円寺「HIGH」のライブも22日(土)の神奈川・横浜「STOVES」のライブもともに伝説入りすべきものだが、23日(日)の福島「AREA559」のライブは特筆すべきものがあった。それを体験できたものは新たな伝説の体験者、また、語り継ぐべき証言者となる運命を背負う“倖せもの”だろう。



これまでライブ前にセットリストを入手しながらも公開をしていなかった。勿論、ネタバレを防ぐためでもあるが、そのセットリストは“仮のセットリスト”というべきものだった。度々、書いているが、曲順や曲目の変更が相次ぎ、セットリストの体をなさないばかりか、これを掲載する意味さえ、疑わしいものだった(!?)。決定稿ではなく、叩きみたいなものなのだ。


実は、この福島のライブを仕切った方の要望も影響している。開場時間と開演時間を日曜日ということもあり、開場時間を午後5時、開演時間を午後5時30分にしている。同時間であれば、仮に2時間のライブでも終電を気にせず、見ることができる。福島といえども都市部と違い、運行時間や運行本数に限りがある。同時に福島だけでなく、岩手や宮城など、東北近県からの来場者も多い。終演時間が終電に間に合わず、乗り遅れるということはあってはならないだろう。



同時に終電に間に合わせるため、最後まで聞くことなく、ライブ途中で帰らなければならないという方も出てくる。流石、電車組の方はタクシーなどで簡単に帰るわけにはいかない。時間を厳守しつつ、セッティングやサウンドチェックなどをしながらセットリストの見直し、また、それに際してリハーサルの練り直しが行われた。ただ、そのため、全体に再確認の必要や曲の展開や進行の再確認などをすることになり、結果としてリハーサル時間が伸びてしまった。山部は大胆に見えて、こと音楽に関しては慎重な男である。演奏を予定しながらも仕上がりに満足できず、先送りしたものもある。この日の開場時間は午後5時40分、開演時間は6時10分になる。リハーサルも最初から最後まで、曲によってフルサイズ、フルセットである。リハーサルというよりもゲネプロ状態である。店の入り口で待っていた方にはその模様が聞こえていたはず。この日はYAMAZEN&The 幌馬車のライブを2本分、見られることになる(!?)。



会場の「AREA559」がある福島の置賜町は福島一の繁華街らしく、周りには飲食店やバー、クラブ、また、若者向けのセレクトショップ、カットスタジオが並ぶ。週末の夜なら多くの店も開き、眩い光を放つはずだが、生憎、この日は日曜の夜、梅雨の影響からか、冷たい雨に街はグレイのスクリーンに覆われる。そんな中、実に多くの方が詰めかける。前述通り、このライブを仕切った方によると、福島だけでなく、近県からも多くの方がいらしているという。ちなみに同ビルには他にもライブハウスがあり、その日は横道坊主の中村義人のソロライブもあった。中村は自分のライブの開演直前まで、山部達のリハーサルを見ていた。


40分遅れのライブは午後6時10分から始まった。ステージにはThe幌馬車のメンバーが登場する。最初は彼らだけの演奏によるOpeningである。ボー・ディドレーの「You Don’t Love Me」とエディ・コクランの「GUYBO」を披露する。



会場が充分に温まったところで、同曲の後、山部がステージに登場する。演奏したのは山部のテーマソングというべき、「6600ボルト」である。まさに理想的な滑り出し。観客も一気にその世界に引き込まれる。「誰かが邪魔している」、「Rock’n Roll Doctor」と、前のめりなロックンロールナンバーを畳みかける。同曲に続き、「GOOD BYE MAMA」でペースを変える。山部と茜のコーラスの掛け合いはまるでソウルショーのような優雅さと豪華さがある。また、山部は女性ヴォーカリストを輝かす術を心得ている。流石、“中洲ジャズ”などで数多の女性ヴォーカリストや女性グループなどと共演してきただけある。茜を始め、延原や穴井、澄田など、歌える演奏者がいることもThe 幌馬車のストロング&チャームポイントだろう。


山部は朝から東京を発って、車でやってきたと語る。雨の中、車で進んできたが、福島に着いたら雨が止み、晴れ間が出たという(山部が会場入りした時は雨が止んでいた)。そんな話は、空を見上げれば輝く太陽――という歌詞がある「ランナー」に繋がる。石井のピアノがフィーチャーされる。



同曲に続き、熱い夏を想う「HOT SUMMER STORY」が披露される。太陽ガンガンと歌われるレゲエ調のトロピカルなサマーソング。当初は夏フェスなどで演奏しているところをイメージしたらしいが、夏フェスから一向にお呼びがかからないという(笑)。今年こそ、同曲を夏フェスで聞いてみたいもの。石井など、メンバーのソロを回したり、観客の手拍子などを力に会場がひとつになる。男女での拍手やコーラスの掛け合いを競うなど、会場はまるでゴダイゴの「ビューティフル・ネーム」の“ウーアー合戦状態”。今回のツアーマネージャーもいきなりステージに呼び出され、コーラスに強制参加(!?)させられる。この愛あるいじり(いじめではない)は、山部からツアーマネージャーへの感謝の表れだろう。



これまでだったらこの辺で第1部が終わり、休憩やトークタイムが入り、その後、第2部になるはずだったが、今回は休憩もトークタイムもなく、そのまま演奏を続ける。「アシスタント」や「少しだけ優しく」、「BOOGIE BABY」など、曲順に一部変更もあるものの、当初の演奏予定の曲をそのまま続ける。


そして“The 幌馬車の一番の色男、延原が歌います”と、山部がアナウンスして、「Modern Boy」を延原が歌う。同曲に続き、山部が「CRAZY TOWN」を披露する。同曲ではこの異常気象、発狂化する都市を揶揄する。


メンバー紹介後、ソロが回され、「タフじゃなきゃ」で、The 幌馬車の聞かせどころ、抜群のハーモニーを生むコーラスを披露する。会場も山部の“タフじゃなきゃ”というメッセージを噛みしめる。


山部は“3日間も椅子に座って歌っていたら元気が出てきました”と嬉しそうに語る。ならば、ここでアップテンポのナンバーかと思ったら昨日、横浜でも披露したラブバラードの名曲「オルゴール」が披露される。



聞くものを蕩けさせる。恋するものは古の恋に浸るかのような夢心地。余韻に浸りたいところだが、このライブを仕切る方からは“だらだらしないでください”と言われたという。それを思い出したのだろうか、そんな空気から一転、“ダンスナンバーをやります。陣内孝則が歌っていた”という「可愛いアノ娘」が演奏される。会場は一気に熱狂の騒乱状態。やはり同曲は“キラーチューン”である。その勢いそのままに同じくTh eROCKERSもやった「キャデラック」を会場に投下する。まるで波状攻撃である。観客は思い思いにダンスする。休日のダンスホールでロックンロールパーティが開催される。内気の方が多いという福島では、こういう光景は珍しいそうだ。


同曲を終えると、山部とThe 幌馬車はステージから消える。時間は午後8時前になっていた。これなら終電に間に合うだろう。昨日、アンコールはなかった。今日はどうだろうか。暫くしてThe 幌馬車のメンバーがステージに帰って来る。延原が“まずThe 幌馬車でアンコールをやらしてもらいます”と告げ、同時に“山部さんもやってくれそうです”と、笑顔で語る。


澄田のヴォーカルでお馴染み、CCRの「スージーQ」、続いて延原のヴォーカルでロバート・ジョンソンの「STOP BLAKING DOWN BLUES」が歌われる。会場がさらに熱くなり、そんな中、山部がステージに戻ってきた。


山部はルーファス・トーマスの「WALKING THE DOG」とジョン・リー・フッカーの「BOOM BOOM」というブルースやロックンロールの古典を披露する。山部善次郎の“ベストオブベスト”とでもいうべき、“YAMAZENヒットパレード”(珠玉の名曲を再確認すべき!)からロックンロールやブルースなどの名曲を敢えて披露する。そんな謙虚さと古の音楽への敬愛は山部ならではだろう。ロックのルーツを辿る大きなツリーが出現する。過去と現在が繋がる。山部がロックンロールの神様達に感謝を告げる儀式のようだ。




彼は同曲を歌い終え、ステージから消える。午後8時にはすべての曲をやり終えている。約2時間、綱渡りではあったが、無事にステージは終わる。やり遂げたのだ。観客に深い満足を残す。誰もが嬉しそうな顔をしている。


山部も観客の反応が良かったからか、彼も嬉しそうな顔をしている。すっかりご機嫌である。終演後には、物販ブースに顔出し、気軽にサインや撮影に応じていた。



長いようで短い3日間のロックンロールジャーニーは終わった。山部はこの日、ステージで来年も福島でやると“約束”している。




終演後、居酒屋での打ち上げではメンバーもその思いは同じらしい。この日は石井が饒舌で、常に自分をいい意味で驚かせてきた山部への深い愛を語る(ちなみに山部は疲労のため、打ち上げは欠席になった)。後半は涙ぐむシーンもあった。また、近いうちにThe 幌馬車の再稼働もありそうだ。山部善次郎とThe 幌馬車がいる幸せを噛みしめた、そんな3日間ではなかっただろうか。今回、その場に立ち合えなかった方も来年は是非、参加して欲しい。今年、9月25日に山部は70歳、古希になる。来年になる前に祭りもあるかもしれない。The 幌馬車も茜以外は60代、それまでみんな、病気や怪我することなく、タフでいて欲しい。


ちなみに山部は翌朝、東京に車で戻るメンバーを宿泊先で見送っている。山部は仙台空港から福岡への帰路についた。その日は飛行機の時間まで喜多方(喜多方ラーメンを食べている)や猫駅長で有名な芦ノ牧温泉、大内宿(江戸時代に会津若松市と日光今市を結ぶ重要な道の宿場町として栄えた同所をそのまま保存。茅葺屋根の民家などが街道沿い並んでいる)を巡るなど、会津を思い切り堪能したようだ。



Photo:KYOKO ONO


なお、昨2023年4月の山部YAMAZEN善次郎&The幌馬車のツアー模様は以下にリポートしている。併せて参考に読んでいただきたい。山部のプロフィールやメンバーのプロフィールなども掲載している。長いから休み休み読むことをお勧めする。





“69 Love YAMAZEN Tour2024”

【YAMAZEN&幌馬車】

6/21(金) 高円寺 HIGH

ゲスト:武藤昭平


6/22(土) 横浜 STOVES


6/23(日) 福島 AREA559




『山善古希LIVE!!」

博多Bassic.

9/22(sun)

YAMAZEN & BLUES FELLOWS feat. TAD MIURA

guest 石井啓介


VO;山部;YAMAZEN:善次郎、TAD三浦、石橋三喜彦、石井啓介、ナガサキスリム、勝野慎二、ジャステン小川


open 18:30 start 19:00

fee 5500 yen plus order




閲覧数:480回0件のコメント

Comments


bottom of page