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FUKUOKA BEAT REVOLUTION

偉大なる復活――穴井仁吉の帰還! そしてアカネ&トントンマクート再始動!!


台風14号が列島を直撃した9月19日(月・祝)、新宿のライブハウス「red cloth(紅布)」のステージに穴井仁吉はいた。長き不在を経ての表舞台への帰還である。左手首と左足骨盤の骨折で約40日間入院していた穴井仁吉が退院し、ステージに帰ってきた。穴井の入院が報じられたのはKJこと、梶浦雅弘が参加したKJ&トントンマクートの札幌ツアー<7月30日(土)・31日(日)札幌「Crazy Monkey」>の直前である。同ツアー後にはEli&The Deviantsの福岡・熊本ツアー<8月11日(木・祝)福岡「Bassic.」、13日(金)熊本「ONE DROP」>も控えていた。札幌は元アンジーの岡本雅彦、福岡・熊本は元アレルギーの中西智子がその穴を埋める。リアル“You’ve got a friend”――ミュージシャンのリレーションシップがピンチを救った。穴井のためならと、日程をやりくりし、リハーサルの時間もろくに取れない中、やり遂げたのだ。


新宿のライブハウス「red cloth(紅布)」に穴井仁吉(B、Vo)、下山淳(G、Vo)、延原達治(Vo、G)、佐々木茜(Dr、Vo)の4人が揃う。通常モードのアカネ&トントンマクートの再始動でもある。


穴井はSNSで「下山淳には札幌と福岡・熊本とダブルで大変だったと思います~ご迷惑をかけたので、頭を丸めてお詫びしないといけない所~下山のリクエストで延原が言う~ハルク・ホーガンの髭形にしました」と書き込み、写真も公開している。シタールの音色が流れるサイケなインド音楽のBGMに乗って、メンバーが登場。穴井は松葉杖を突いている。穴井の顔を見ると、数日経ったせいか、ハルク・ホーガンの髭型は普通の髭型になっていた。左手首に包帯、左足はギブスという、下山いうところの“メカアナイ”状態ながら、この日のオープニングナンバーであるストーンズ(ローリング・ストーンズのこと)やDr.Feelgoodもカヴァーしたチャック・ベリーの「Talkin’ about you」を聞く限りは演奏そのものに変わりなく、至って通常モードである。「ボントンルーレ」(ジョニー・ウィンター)、「WHISKY HEAD WOMAN」(柴山俊之のプロジェクトBLUES LIONのナンバー)と快調に飛ばす。


最初のMCは延原達治。彼は“皆さん、この天候の中、今日はありがとうございます。アカネ&トントンマクートの2回目のライブ(この4人で“アカネ&トントンマクート”と名乗ってのワンマンライブは2022年5月22日(日)に所沢「MOJO」で開催されたデビューライブ以来、2回目になる)。この夏を棒に振った、オートクチュールのギブスをつけている穴井さんには後で念入りにお話を伺います”と、芸能リポーター宣言(!?)する。


延原は山部YAMAZEN善次郎が作り、TH eROCKERSがカヴァーした博多由来の名曲「キャデラック」を歌い出す。いうまでもなく、彼らにとって、この曲は基礎中の基礎。オリジナルに敬意を払いながらもトントンマクートの「キャデラック」に仕上げる。同曲で会場が盛り上がったところで、延原と穴井のボケとツッコミ、落ち無し、行先不明のトークショーが始まった。


すべては収録不可能、門外不出の話ばかり、コンプライス(!?)に抵触する危険もあるので、公開できる範囲に留めさせていただく。



そもそも骨折の原因は、空に虹が出ていて、その光景を写真に収めようと、トラックの荷台に上がり、撮影したことからだった。しかし、撮影に夢中になるあまり、バランスを崩し、荷台から落下してしまったという。虹を撮るなど、ロマンティックな穴井らしい行動だが、虹を掴みそこね、骨折をしてしまった。穴井は延原へ電話をかけ、骨折し、入院したことを告げ、“北海道、行けんのよ”と伝えたという。実は彼が北海道行きを一番、楽しみにしていた。メンバーには北海道へ行ったら、あれを食べよう、これを食べようと言っていたらしい。特にラムしゃぶが食べたかったそうだ。入院期間は40日に及んだが、当初は2週間だったらしい。それが思いもかけず、長期化する。穴井は病院食が美味しくなく、着替えにくるんでチーカマやお菓子などを“密輸”していたという。入院中、メンバーからは北海道で食べたものの画像が送られてくる。最初は美味しそうとか、リアクションをしていたが、回数が増えるにしたがって、レスがなくなったという。穴井は、メンバーが穴井の返信がないのを心配していたことを知らず、改めて“ごめん”と謝る。穴井にお土産にジンギスカンキャラメルを買って帰ってきたが、それは“美味しかったよ”と、ここでメンバーへ感謝する(笑)。


そんな穴井だが、次は穴井の番である。自らのオリジナルナンバー「Got Feel So Good」を歌う。MOTO-PSYCHO R&R SERVICEのナンバーだ。下山の自作のラップスティールが歌に絡みつき、スワンプな風情を醸す。


続く曲はセットリストには「Follow Me」と記載されているが、同曲ではなく、「THAT ROAD」が演奏される。ラリー・カールトンとロベン・フォードの共演ナンバーで、インストゥルメンタルである。下山のスライドと延原のギターの“バトル”がスリリング。ラリー・カールトンもロベン・フォードもフュージョン系のギタリストとして有名だが、「THAT ROAD」はジャズやブルースが香る名曲。絶妙な選曲である。同時にトントンマクートの引き出しの多さと懐の深さを感じさせるものだろう。


延原が敬愛する山口冨士夫の「からかわないで」を歌い、観客を魅了する。彼の中にある無頼への憧れを昇華し、自らの歌にしていく。同曲を歌い終え、次の曲に移るところで、アンプが不調のため、ノイズが出だす。急遽、アンプを変えることになるが、その場の繋ぎを任されたのが穴井。当初、穴井は8月30日には退院のはずが、手の痛みがあり、延長になってしまう。実は病院食の9月のメニューにかつが入っていたからだという。かつやカレー、当然、かつカレーは彼の大好物。病院食のかつでも美味しくいただいたそうだ。流石、食いしん坊の穴井である。


延原は次の曲を歌うアカネについて語る。一緒に練習をするたびに彼女は音楽をわかっているアーティストだと感じているという。いわゆる決め事などもちゃんとメモも取っている。下山や穴井はリハーサルの度に決め事があるにも関わらず、ころころ変わり、有名無実化すると嘆く。そんな時にアカネのメモが役に立つという。10分ほどして、アンプのセッティングも完了。アカネがデルフォニックスの名曲で、トッド・ラングレンやローラ・ニーロ、山下達郎などもカヴァーした「La La Means I Love You(ララは愛の言葉)」をレゲエヴァージョンで聞かせる。アカネはドラマーとしてだけでなく、ヴォーカリストとしても一級のものがある。そのソウルフルな歌声は聞くものを虜にしていく。


この日は穴井の体調も考慮して(!?)、1部、2部の二部制で間に休憩が入る。1部の締めは下山淳。自らのオリジナルでROCK'N'ROLL GYPSIESのナンバー「OLD GUITAR」を弾き語る。聞けば聞くほど、嵌るという味わい深い曲だ。思わず、観客もうっとりとする。


1部の終了時間は午後7時45分。この時点で既に1時間越えである。今日は長い夜になりそうだ。穴井の体力は持つか、彼らは容赦しない(笑)。勿論、これまでの不在時間を埋めるかのように演奏を重ねている。


会場にはEli and The Deviantsのヴォーカリスト、武田康男が来ていた。同郷の先輩であり、バンドメイトである穴井仁吉の復活をその目に焼き付けたかったのだろう。ライブ終了後だが、穴井や下山へ駆け寄り、熱心に話し込む姿が印象的だった。



15分ほどの休憩の後、午後8時にメンバーはステージに戻って来る。2部が始まる。下山が印象的なギターのフレーズを弾きだし、延原の掠れた声が重なる。泉谷しげるの名曲であり、1988年に下山のアレンジで蘇った「春夏秋冬」である。延原は暴れん坊の純情とでもいうべき世情歌を泉谷と下山への敬愛を込めて、歌いきる。2022年の新たな世相や世情を活写し、吐露する歌が生まれた瞬間だろう。


続いて下山が「黒の女」を弾き語る。浅川マキに捧げたと言われるナンバーで、ROCK'N'ROLL GYPSIESの『ROCK'N'ROLL GYPSIES Ⅲ』に収録されている。ブルージーなヴォーカルに延原のファンキーなギターの刻みが心地良く絡んでいく。その歌は聞くものの心と身体にすんなりと入ってくる。トントンマクートが数多ある音の扉を開け放し、好きに聞いてくれと言っているかのようだ。


そして穴井が再び、ヴォーカルを取る。フリートウッド・マックの「ONLY YOU」である。フリートウッド・マックと言ってもスティーヴィー・ニックス在籍時のポップな時代のマックではなく、ピーター・グリーン在籍時のブルージーな時代のマックである。渋いブルースを穴井が渋い声で歌う。


穴井は退院する際、一般社会に出ることに関して、億劫になるではないが、遅れてきたモラトリアムのように少し尻込みしていたという。嫌だとまで言っている。普段の穴井からは想像できないが、それが40日間という長い入院生活ということだろう。入院中はスマートフォンをWi-Fiに繋ぎ、アニメばかり見ていたという。異世界ものに嵌ったそうだ。


延原は“異世界といえば下山、穴井と下山は異世界兄弟”と囃し立てる。その下山は前回も披露したトミー・ボイス&ボビー・ハートの「I wonder what she’s doing tonight(あの娘は今夜)」を歌う。彼らは「恋の終列車」や「モンキーズのテーマ」など、モンキーズの楽曲を手掛けたことで知られるソングライターチームでもある。フォークロック調のポップなナンバーだ。この先、下山と穴井という異世界兄弟の共作も聞きたくなる。


そしてTHE ROOSTERSの代表曲「ロージー」が披露される。思い切り、ダブを効かせたヴァージョンで同曲の新たな魅力を引き出していく。


延原は“2部はくだらないおしゃべりもなく。粛々と進んでいます”と、語りながらも本心は穴井のくだらないおしゃべりを持っているかのようだった。それに穴井はすかさず、察知して反応する。流石、バンドメイト。阿吽の呼吸だ。抱腹絶倒の病院ライフの実態を“暴露”していく。洗体の白峰さん(白峰さんではなかった)やOVER 90の陽気な老人たちの生態を語る。詳細を再録し、再現するのは危険すぎるので、お口にチャックだが、その話は何か、映画を見ているようでもあった。フィリップ・ド・ブロカ監督の『まぼろしの市街戦』が浮かんできた。


そんな淀んだ空気(笑)を一掃するかのようにアカネがソウル・チュルドレンの「Don't Take My Sunshine」(歌詞はアカネが日本語に意訳している。ずくなし、三宅伸治&The Spoonfulでも歌っているという)をソウルフルな歌声で披露し、観客を魅了していく。彼女の声は芯が通っていて、聞くものをシャキッとさせる効果がある。


同曲に続き、下山がニール・ヤングの「LIKE A HARRICANE」、延原がザ・ドアーズの「RIDERS ON THE STORME」、同じく延原がローリング・ストーンズの「MIDNIGHT RUMBLER」を畳みかける。この流れは各メンバーの歌や演奏を含め、安定した技量の上に繰り広げられるアドリブやインプロビゼーションなど、まさに圧巻である。アカネ&トントンマクートの世界を作り上げ、聞くものに音の万華鏡を見せる。さらにそれはTHE ROOSTERSの「Do The Boogie」で絶頂へ到達する。このグルーブとバイブレーションは、アカネ&トントンマクートの独壇場。穴井の復活だけでなく、アカネ&トントンマクートの偉大なる復活を観客は目の当たりにする。


同曲を演奏し終えると、下山がメンバーを改めて紹介する。どこか、下山が誇らしげなのが印象に残る。


午後9時25分、メンバーはステージから消える。当然の如く、アンコールを求める拍手とマスク越しの歓声は止まない。メンバーは観客を待たせるのがもどかしい以前に、もっと演奏したいという気持ちからだろう。あまり待たせることなく、数分後にはステージに上がっていた。下山は観客へ感謝を伝え、穴井が参加できなくなった直後、北海道だけでなく、九州もあることからメンバー探しに奔走したことを明かす。


アンコールの1曲目はルーファス・トーマスの「Walking the dog」(ストーンズもカヴァーしている)を披露する。セットリストには同曲は記載されていないが、急遽、“追加”された。そして、2曲目はマディ―・ウォータースの「Mojo Workin‘」が続く。彼らの十八番、鉄板のラインナップだろう。


同曲を歌い言えると、延原が穴井を“遂に復活した穴井さん”と紹介する。会場から温かい拍手が巻き起こる。ここにいる誰もが彼の復活を心待ちにしていた。延原は“秋の夜更け、実りの秋だから、たっぷり収穫したら穴井さんに上げてください”と、告げ、下山が歌うことを伝える。下山はニール・ヤングの「ハーヴェスト・ムーン」をメンバーと共に弾き語る。いうまでもなく、同曲は1972年にリリースしたニールの傑作アルバム『ハーヴェスト』から20年後、1992年にリリースされた続編的なアルバム『ハーヴェスト・ムーン』のタイトルトラック」である。同曲は時期は少しずれたが、中秋の名月を歌ったもの。実りの時を迎え、円熟期にある二人を歌ったものでもある。


下山は同曲を演奏しだすが、途中でやめてしまう。間違えたので、歌い直すというのだ。彼らにしては珍しいことだが、“何て言ったって新人バンドですから”と告げる。そう、まだ、2回目のワンマンである。「ハーヴェスト・ムーン」を歌い終えると、メンバーはステージから消える。時計は午後9時55分を指していた。大型新人バンド、遅れてきたルーキーズ、アカネ&トントンマクートの旅はこれから始まるのだ。




3時間近いステージを穴井は無事、いや、見事に乗り切った。完全復活ではないが、上々の滑り出しではないだろうか。実は、穴井は不安を抱えながらの復帰でもあった。彼の担当医も9月19日に復帰するという穴井の思いを理解し、その日を目指し、車椅子ではなく、松葉杖で歩行できるようにギブスなども作ったという。


この日、会場に来ていた観客は彼の復活を目の当たりにして、安心感を抱くとともに無理をして欲しくないと思ったはず。焦ることなく、いつもの調子になるまで、油断は禁物。観客は焦らず、待っている。



この後、9月24日(土)に横浜「GIGS」で「~つるみ音楽祭り~」、澄田健と内田裕也&トルーマンカポーティR&Rバンドのドラマーの高野哲秀とロックンロールを演るという。いずれにしろ、活動が本格的に活性化するのは10月からになる。10月1日(土)は札幌「Bessie Hall」でShinya Oe & Super Birdsのサポート(念願の札幌行き! チケットはソールドアウトだが、配信が決定している)、10月9日(日)に下山淳の故郷・山形県鶴岡市の「Bar TRASH」で穴山淳吉、10月16日(日)には下北沢「シャングリラ」で彼が関わるイベント『亀戸ハードコア10周忌 KAMEIDO HARDCORE 10YEARS AFTER』が控えている。10月22日(日)に「高塔山ロックフェス2022」でShinya Oe & Super Birdsのサポート、11月3日(木・祝)には所沢「MOJO」でアカネ&トントンマクートの3回目のワンマンライブも予定されている。予定が目白押しだが、楽しみに待つとともに穴井仁吉の活動しながらの完全復活を祈ろうではないか。きっと、穴井は“だいじょうぶだぁ”!



9月24日(土)横浜GIGS〜つるみ音楽祭り〜 with澄田健/高野哲秀(内田裕也&トルーマンカポーティR&RバンドDr.) https://supergoooooood.com/.../%E3%81%A4%E3%82%8B%E3%81.../


10月1日(土)札幌Bessie Hall Shinya Oe & Super Birds


10月9日(日)山形県鶴岡市「Bar TRASH」



10月16日(日)亀戸ハードコア10周忌 KAMEIDO HARDCORE 10YEARS AFTER https://www.shan-gri-la.jp/tokyo/2022/10/16/10-16%E6%97%A5/



10月22日(日)高塔山ロックフェス2022 Shibuya Oe & Super Birds



11月3日(木・祝)所沢MOJO

アカネ&トントンマクート http://mojo-m.com/




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