積み重ねか。THE MODSの苣木寛之のソロ・プロジェクト「DUDE TONE」は“結成”からもう10年以上の月日が経った。「DUDE TONE」そのものはゲスト・ミュージシャンとして花田裕之を迎えた「BACK ROOM」の制作を契機に苣木寛之(G、Vo)、花田裕之(G、Vo)、井上富雄(B)、椎野恭一(Dr)というメンバーが集まる。2010年2月5日に同ファーストシングル「BACK ROOM」、同年11月17日にファースト・アルバム『AFTERGROW』がリリースされている。その直後、2010年11月に同メンバーでライブも行われている。
THE MODS+THE ROOSTERSの共演(ドラムスは前述通り、池畑潤二ではなく、布袋寅泰や山下久美子などのバッキングでお馴染みの椎野恭一)――それだけで事件であり、業界は色めきたつところだが、そんなものを売り文句にせず、地道に着実にライブを重ねるのが苣木らしいところだろう。
私自身は2010年にはデビューライブを見ることが出来なかったが、翌2011年8月11日、新横浜「SUNPHONIX HALL in Yokohama Arena」で彼らのステージを見ている。
3年ぶりのセカンドアルバム『十字路のGuitar』を2014年5月21日にリリース、ツアーも行っている。2014年6月10日(火)、東京・下北沢「Garden」で行われたステージを見ている。THE MODSともTHE ROOSTERSとも違う、二人の掛け合いが印象に残った。
その後、残念ながらメンバーの調整がつかず、DUDE TONEは文字通り、苣木のソロ・プロジェクトとなり、2017年からは苣木がギター一本を抱え、全国のライブハウスを回るアコースティック・ライブツアー“Walkin’ Blue”を始めている。同年には計4回、全7公演を行った。彼は同ツアーを行うにあたって、花田裕之のソロアコースティックライブ“流れ”を参考にして、実際、彼のライブへも足を運んだという。苣木自身はTHE MODSの活動の度重なる延期や中止など、予定を立てにくい状況でもあった。同時に自ら動くことで、“THE MODS”の屋台骨を支えるという気持ちもあったのだろう。同ツアーは彼のもうひとつの“ライフワーク”になっていく。
同ツアーはTHE MODSの活動と同時並行、間隙を縫う形で、この8月、9月に行われた『DUDE TONE LIVE 2023 “Walkin’ Blues” Vol.8』まで、2018年、2019年、2022年、2023年と、8回行われている。その“Vol.8” の最終日、この9月10日(日)、東京・代官山「UNIT」で開催された同公演を見ることが出来た。“Walkin’ Blues” は2019年、2022年のライブを見ているので、今回で3回目になる。前2公演とも東京公演は都合がつかず、名古屋「TOKUZO」まで出かけている。何か、ツアー先で見ることに意味があるように感じていた。いずれにしろ、同ツアーを初めて東京で見ることになった。
会場は立ち見も出る盛況ぶり。同所は比較的、大箱のライブハウスである。このところ、DUDE TONEのチケットは全国各地で争奪戦になっていて、チケットが取れず、見られないというファンも多いようだ。そのため、苣木自らが決断して“大きな会場でやらせてもらった”という。“Walkin’ Blues”も回を重ね、定着してきている。同時に苣木寛之というソロミュージシャンとしての存在がシーンに確固たるものになりつつある証拠だろう。
当日の模様を報告する前に改めてTHE MODSのここ数年の軌跡を書き記しておく。コロナ禍の中、『THE MODS TOUR 2019-2020 “KICK ON BOOTS”』の一部公演中止、『THE MODS Premium Acoustic Tour 2020 “BLUES BRIGADE II”』の全公演中止を経て、様々な対応と対策で2021年10月の『40周年記念ツアーTHE MODS 40TH ANNIVERSARY LIVE「約束の地」』、2022年6月、7月の『THE MODS 40TH ANNIVERSARY LIVE ENCORE「続・約束の夜」』をやり切っている。その後、2022年11月25日から12月16日まで全国4カ所全8公演が行われる予定だった『THE MODS Premium Acoustic Tour 2022 “DRIVE WAY JIVE”』は森山達也の体調不良(突発性難聴)のため、全公演が中止になった。
その間、苣木寛之はソロ・プロジェクト“DUDE TONE”として7年振りのマキシシングル「VOICE」を2021年12月15日(水)にリリース。「可愛いジニー」から「SLUMBER」、「親不孝通りを抜け」、「CRYIN’ BLUES」、「コロナのせいで」(2020年4月にTwitterにアップした曲をレコーディングしボーナストラックとして収録)までの全5曲を収録している。実は、同作に収録された曲達が2022年と2023年のDUDE TONEのステージの大事な位置を占める。ある意味、時代の“VOICE”というもので、時には“CRY”にも聞こえた。
「コロナのせいで」は、私達が体験した未曾有の出来事が彼の日常を通して“BLUES”として残される。“ツアーの延期の延期の延期の延期で”や“ライブハウスが恋しいね”、“家にカンズメ”、“マスクが買えない”など、 “五類移行”になった今でも感染者が激減したわけではないので、過去の話や笑い話にはできない。THE MODSとは違う形で、時代を映す鏡となっている。
また、「親不孝通りを抜け」は彼らのデビュー直前の博多時代を歌った青春ソング(THE MODSに相応しくないかもしれないが、敢えて使ってみた)。もうひとつの「TWO PUNKS」とでもいうべきものである。「TWO PUNKS」が森山達也と北里晃一の物語としたら「親不孝通りを抜け」は苣木寛之と梶浦雅弘の物語ではないだろうか。私も縁あって、デビュー直前の彼らに親不孝通りに近い、長浜公園を挟んで、「80's FACTORY」の前にある喫茶店で彼らに取材したことがある。その時の自信満々の森山と北里、半信半疑の苣木と梶浦の顔を覚えている。いずれにしろ、彼らは今もロックンロール真っ最中。ロックの呪縛から離れられないのだ。
以前、苣木は“Walkin’ Blues”を行う3つの理由をステージで語っている。まず、DUDE TONEの楽曲を演奏し、その存在を知らしめること(この日は「BACK ROOM」や「LONG SHADOW WAY」、「明日への切符」など、セットリスト参照)、アマチュア時代にコピーしていたナンバーを披露し、こんな曲を聞いて、こんな大人になってしまったと教えること(この日は、エディ・コクランの「C'MON EVERYBODY」)、さらにTHE MODSがあまりやらなくなった名曲を発掘すること(この日は「KISS KISS」、「GIMME HOLIDAY」)だそうだ。今回、カバーは少なかったものの、セットリストもそれを概ね物語るものだったと言っていいだろう。
ただ、違うのはこの数年間の出来事、また、ツアーから生まれたものを音源化する前に観客に聞いてもらうという側面もあった。事実、「酷いあだ名」と「月夜」は昨年できた曲、「TRAIN RIDE HOME」は今年できた一番新しい曲だという。いずれもライブのみの披露で音源としては発表されていない。
何か、時代の揺らぎや軋みを物語るとともに日常生活の大切さを感じさせるものだ。特に「TRAIN RIDE HOME」は“電車に乗って、家へ帰ろう”という、大袈裟な歌ではないものの、聞いていると、じんわりと沁みてくる。DUDE TONEらしいナンバーだろう。早く音源を聞きたいという方も多いのではないだろうか。
ライブそのものは1時間30分ほどのものだが、過不足はまったくない。改めて苣木寛之のミュージシャンとしての才能と誠実さを再確認させるものだ。何故、彼が“教授”(THE MODS界隈で教授といえば苣木寛之のこと)と呼ばれるか、わかるだろう。その音にインテリジェンスがある。サウンドそのものも泥臭くなく、どこか、気品がある。個人的にはリチャード・トンプソンやラルフ・マクテル、ロイ・ハーパーなどに通じるものを感じている。そうえば以前、花田とともにカバーしたピンク・フロイドの「Wish You Were Here」も絶品だった。
この日、苣木は森山の病状についても話してくれた。残念ながらいまのところ、すぐに快癒するものではないようだ。だからといって、不治の病というわけではないらしい。いまは回復を信じて、待つしかないだろう。私達にできるのは祈ることだけだ。マネージメントからも具体的な予定などは出て来ていない。おそらく、メンバーやスタッフ、家族、友人が誰よりも心配しているはずだが、彼はいくつもの困難を乗り越えてきた。また、“約束の場所”で会えるだろう。
その時のための準備は怠らず、出来ることをしようとしている。苣木寛之の“Walkin’ Blues”も続いていきそうだ。久しぶりに旧友達との再会も実は密かに期待している。
なお、この日のステージの最後に苣木が“最高の(ツアーの)締めができました”という言葉を残したのが印象的である。ライブ中も“今日のお客さんはいい人ばかりで、とてもやりやすい”と何度も話していた。前回、2022年の“Vol.7”ツアーの締めが大変なことになってしまったようだ。同ツアーは前述通り、名古屋のライブを見たが、締めになる東京のライブは見ていなかった。どうしても気になり、実際に行った方が知り合いにいたので、確認したところ、変なお客さんが酔っ払っていたのか、大声を上げて騒ぎ、よりによって、掛かってきた電話に出て、話をしていたという。席が最前列だったので摘まみ出すことも出来なかったようだ。論外だろう。ルールやマナー以前に人としてどうか。ただ、自己満足的に騒ぎたかっただけかもしれないが、すべてのライブやコンサートに相応しくない、招かれざる客だろう。当たり前だが、この日、そんな傍若無人な行動をとるものが一人もいなかった。コロナ禍の中、得も言われぬ疑いをかけられ、ライブハウスなどが悪者にされたことを忘れてはいけない。
DUDE TONE LIVE2023“Walkin’ Blues”Vol.8
2023年9月10日(日)代官山UNIT
1. 可愛いジニー
2. STAGGER
MC
3. コロナのせいで
4. SLUMBER
MC
5. VERY VERY SLOW
6. 嘘発券器
7. TROUBLE JUNGLE
MC
8. 酷いあだ名
9. 月夜
MC
10. BACK ROOM
11. LITTLE BLUE
MC
12. TRAIN RIDE HOME
13. LONG SHADOW WAY
MC
14. 親不孝通りを抜け
15. C'MON EVERYBODY
EC1
1. KISS KISS
2. GIMME HOLIDAY
EC2
1. CRYIN' BLUE
2 .明日への切符
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