top of page
FUKUOKA BEAT REVOLUTION

老いるより、錆びるより、その先へ――ROCK’N’ROLL GYPSIES 2023 NEW ALBUM RELEASE TOUR「Ⅴ」

photo by YUKARI MORISHITA


この4月30日にリリースされた彼らのニューアルバム『Ⅴ』。オリジナルアルバムとしては前作『IV』以来、7年ぶり、5枚目のアルバムになる。花田裕之(G、Vo)、下山淳(G、 Vo)だけでなく、市川勝也(B)、池畑潤二(Dr)も楽曲を提供。収録された全10曲はROCK’N’ROLL GYPSIES史上、最高にバラエティ豊かで、親しみやすいポップな仕上がり。そんな新作を携えてのリリースツアーは5月7日(日)広島県 広島CLUB QUATTROを皮切りに12日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO、19日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO、25日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTROまで、全4公演が行われた。前回、昨2022年6月の同じく全国のCLUB QUATTROを回るツアー『ROCK’N'ROLL GYPSIES 2022 CLUB CUATTRO TOUR <Honest I do.>』はメンバーのコロナ感染などで、6月17日(金)の名古屋公演が8月9日(日)へ延期になるなど、トラブルもあったが、今回はトラブルもなく、無事に予定通り、完走している。


         *****************


この日、5月25日(木)は同ツアーの最終日、大団円を迎える。会場には多くのファンが詰めかけた。開演時間の午後7時に近づくと、彼らの雄姿を目撃したいという観客が続々と押し寄せてくるのだ。


この日のステージは午後7時を10分ほど、過ぎて始まる。平日のため、開演後に駆け込む観客も少なくない。1曲目はお馴染み、「TRUCKIN'」(2003年『ROCK'N'ROLL GYPSIESⅠ』作詞・作曲:花田裕之)。畳みかけるように「MUDDY MAN」 (2005年『ROCK'N'ROLL GYPSIESⅡ』作詞・作曲:花田裕之)、「空っぽの街から」(2016年『ROCK'N'ROLL GYPSIES Ⅳ』作詞・作曲:花田裕之)と続く。これぞ、ROCK’N’ROLL GYPSIESという、花田が作った定番曲が並び、ツアーの成果の発表会のようなシュアでステディな演奏が繰り広げられる。



花田は“新しいアルバムから市川の曲です”と紹介する。4曲目は新作『ROCK'N'ROLL GYPSIES Ⅴ』から市川勝也が作詞・作曲を手掛けた「Fly -with only one wing-」が歌われる。いきなりその世界に持っていく複雑怪奇で“テクノ”なイントロや間奏を下山のエフェクターマジックが可能にする(Robotalkというギターエフェクター<オートワウ>を使って実際に弾いている。ライブでも勿論使っているという)。曲調そのものは、花田のヴォーカルということもあるが、ROCK’N’ROLL GYPSIESマナーを辿りながらもどこか、進取の気風があり、若やいだ趣きもある。この曲がアルバムに入るだけで、いい意味で印象が随分と違ってくる。市川勝也のいい仕事だろう。



花田は「LET'EM ROLL」(『Ⅰ』作詞・作曲:花田裕之)、「HO TRAIN BOOGIE」(『Ⅰ』作詞:柴山俊之・作曲:下山淳)を歌いおえると、“SHIMOYAMA JUN’S SONGS”と告げ、主役(!?)を花田から下山へ譲る。下山淳は、彼が作詞・作曲して、歌っている新作『V』 に収録された「素晴らしい世界」(作詞は山口洋)と「蝙蝠の唄」を畳みかける。「素晴らしい世界」はアルバムを聞いた時から、新たな名曲の誕生を予感させるナンバー。山口の歌詞を含め、どこか、ドノバンのようなトラディショナルフォークの佇まいながらドリーミーでファンタジーな世界を醸す。おそらく、下山淳でなければ作れないナンバーだろう。「蝙蝠の唄」は“蝙蝠(こうもり)”や“VAMPIRE(吸血鬼)”などが歌詞に躍るダークでゴシックな世界を描いて見せる。曲調そのものはおどろおどろしくなく、痛快なエアロスミスやAC/DCなどが歌いそうなポップでハードなナンバーというのが下山らしい。最後の雄たけびや叫び声はマイケル・ジャクソンの「スリラー」(!?)まで広がっていきそうだ。いい意味でその世界に一気に引き込まれそうになる。さらに下山の定番曲にして名曲「Old Guitar」(『Ⅰ』作詞:山口洋・作曲:下山淳)が披露される。同曲も下山らしい深淵な響きを持った名曲である。改めて彼の音楽家としての尽きない才能を再確認させられる瞬間ではないだろうか。



下山に続き、花田がヴォーカルを取り、新作『Ⅴ』に収録された池畑潤二が作詞・作曲した「Mr.Lover Man」を歌う。フォーキーでいて、どこか、切なさも感じさせる歌とサウンドは、ROCK’N’ROLL GYPSIESの新境地ではないだろうか。アルバムの幅を限りなく広げ、彼らの多様性を指し示す。敢えて池畑が作ったかのようだ。花田の素直な歌いぶりも聞いていて、微笑ましくなる。


続いて、花田は前作(『Ⅳ』)のオープニングナンバーで、ダルなロックンロール「あきれるぐらい」(『Ⅳ』作詞・作曲:花田裕之)を披露。下山曲と花田曲のふり幅がROCK’N’ROLL GYPSIESらしさでもある。ふり幅をさらに拡げる市川が作詞・作曲した「JUMPIN JUNK HIPPY SHAKE」が披露される。新作のオープニングナンバーである。同作を聞いた方が誰もが新鮮に感じたのは、この曲がアルバムの1曲目を飾ることも大きいのではないだろうか。ベースのイントロからドラムの入り、ギターの重ねなど、まさにパンチの利いたナンバーである。タイトルワードを各所に散りばめ、コーラスに“JUNK” “JUMPIN”、“HIPPY SHAKE”などを入れ込むところなど、まさに新機軸である。市川が嬉々として飛び跳ねながらベースを弾いているところが見ていても微笑ましくもある。


同曲に続き、花田は“IKEHATA’S SONG”と告げ、池畑潤二が作詞・作曲した「危険な日常」(『Ⅳ』)を歌う。同曲には“今宵 唄い 踊れ”と言うフレーズがある。そして花田が作詞・作曲し、新作に収録された「渦」を披露する。いかにも花田らしい人生という旅を歌う、壮大なホーボーソングだ。“老いることより 錆びるより その先へ”や“老いることも錆びることも知っている”はニール・ヤングへの彼なりの回答のようにも聞こえる。彼の魂の叫び(とすると、彼らしくないので吐露としておく)のような歌や演奏である。心の奥底にずしりとくるナンバーだ。新しい名曲を初めて、生で聞くことができた――まさにそんな瞬間だろう。


同曲に続き、下山がお馴染みの「黒の女」(2010年『ROCK'N'ROLL GYPSIES Ⅲ』作詞・作曲:下山淳)を披露する。さらに、新作から「So Long」(作詞・作曲:下山淳)を続ける。下山流のホーボーソングという趣きだが、“時の流れに君は呑み込まれてゆく”や“So long Down by the river”などのフレーズが下山らしい。少しやるせなく、それでいて希望を繋ぐような歌が心と身体に染みわたる。花田は新作に収録した「くりかえして」(作詞・作曲:花田裕之)を披露する。これも花田流のホーボーソングであり、ROCK’N’ROLL GYPSIESを続ける理由、“流れ”を行う意味を歌っているかのようだ。自らの人生や活動が“ありきたりな旅”や“愚かな旅”かもしれないと、自覚しながらも彼は旅することをやめない。何か、決意表明のようでもある。



同曲を終えると、ロックンロールの放浪者たちはステージから消える。時間は午後8時40分。まだ、終わるには早過ぎる。アンコールを求める観客の拍手と歓声はやまない。暫くして彼らはステージに戻っていく。



アンコールの1曲目はルースターズ(Z)の「Lady Cool」(1988年『FOUR PIECES』作詞・作曲:花田裕之)を披露する。観客のみならず、彼らにとっても忘れ得ぬナンバーだろう。観客は歓喜の声を上げ、思いきり身体を揺らす。同曲に続き、ルースターズ(S)の「Do The Boogie」(1980年『THE ROOSTERS』作詞:柴山俊之・作曲:鮎川誠)を演奏する。彼らの奥底、源流にあるナンバーだ。鮎川への追悼の意味もあったのではないだろうか。


同曲を終えると、彼らはステージから再び消えるが、再度のアンコールを求める声と拍手は止まない。彼らは再び、ステージに戻ってくる。演奏したのはルースターズ(S)のファーストアルバム『THE ROOSTERS』に収録された「Fool for You」(作詞・作曲:大江慎也)である。観客が聞きたいと思う曲を演奏する。そんなサービス精神もいまのROCK’N’ROLL GYPSIESにはある。同曲を歌い終えて、演奏したのは新作の異色(!?)のナンバーで、池畑潤二が作詞・作曲した「PLEASE」だ。誰もが新作を聞いて驚いたかもしれない。まるでスカパラのようなスカナンバーで、単にスカというだけでなく、その歌にはともに盛り上がって行こうという意味が込められている。ストイックなまでに自らの音を探究してきた彼らにしたら、このエンタメ感満載の曲調に観客は違和感を覚えるだろう。むしろ、敢えてこの曲を作り、ニューアルバムの最後に収録して、この日の最後に演奏する――そんな強い意志を感じさせる。



同曲には“ありがとう素敵な夜”や“朝まで語り明かそう”、“この瞬間を感じていたい”、“僕は君に夢中さ”……などの歌詞が躍る。所謂ラブソングだが、単なるラブソングではなく、何か、バンドとオーディエンスの関係を歌っているようにも聞こえる。そんな観客との絆を結ぶ、約束のようなナンバーだろう。20年目の感謝か。みんなの歌とでもいうべき「PLEASE」の誕生の背景には昨2022年の“実験”が影響しているように思えてならない。




実は昨2022年、CLUB QUATTROツアー後、10月19日(水)に<HOPE Vo.1–上洛->の名目で京都「磔磔」にて苗場音楽突撃隊、10月20日(木)に<HOPE Vo.2 >の名目で同じく京都「磔磔」にてROCK’N’ROLL GYPSIESで出演。そして10月24日(月)に<HOPE Vo.3->の名目で渋谷CLUB QUATTROにて苗場音楽突撃隊、ROCK’N’ROLL GYPSIESで出演している。



苗場音楽突撃隊はFUJIROCK FESTIVALを盛り上げるバンドとして、2011年より毎年、同フェスの苗場食堂ステージのオープニングを飾り、2013年からは毎年グリーンステージでパフォーマンスを展開している【ROUTE17 Rock’n’Roll ORCHESTRA】の母体となっている。毎回シークレットでFUJIROCK出演のアーティストからゲストヴォーカルが選ばれる。意外な大物とのセッションなど、毎回、話題になっている。昨2022年の<Hope>シリーズで苗場音楽突撃隊はFUJIROCK以外で初のお目見え。門外不出、苗場限定だった突撃隊を“解禁”した。いうまでもないが、同バンドには池畑と花田が加わっている。昨年の<Hope>シリーズでは彼ら以外にも“選抜隊”として、ヤマジカズヒデ(G、Vo)、細海魚(Kb)、隅倉弘至(B)、青木ケイタ(Sax)、タニーホリディ(Vo)などが出演している。いわば池畑と花田の“裏の顔”(!?)をしっかり見せている。ある種、バンドとしての楽しさと芸風の広さをそのまま出している。なんか、そんな経験が「PLEASE」を作らしたようにも感じる。的外れか、的を射ているかわからないが、変化や進化の時なのかもしれない。


とりあえず、ROCK’N’ROLL GYPSIESのツアーは終わった。この夏は、花田は苗場音楽突撃隊や“流れ”、下山はアカネ&トントンマクートのツアーやセッション、池畑は苗場音楽突撃隊以外にも苗場に張りつかなければならない、市川はジュンスカの35周年ツアーのサポートなども控えている。


もし、ROCK’N’ROLL GYPSIESが動くとしたら秋以降かもしれないが、2003年に『ROCK'N'ROLL GYPSIESⅠ』をリリースしてから20年を経てもスリリングな変化やアグレッシブな進化を見せてくれる。そんなバンドはそうあるものではない。彼らの新たな一手を

楽しみ待ちたい。



閲覧数:1,189回0件のコメント

Comentarios


bottom of page